食いしん坊さんの為のお料理作品紹介

小説

碧野 圭(あおの けい)『菜の花食堂のささやかな事件簿』(大和書房)

 『菜の花食堂』のオーナー・靖子さんは、立ち居振る舞いがスマートで、どこか他のひととは違った雰囲気がある女性。そんな彼女の開くお料理教室で、ひょんなことから助手を務めることになった優希さんの視点で、物語は進んでゆきます。靖子さんの鋭い推理によって、料理教室の生徒さんたち(優希さんも含め)の、少々苦みをともなった謎が、次々と明らかになってゆき……。
 人間の一番無邪気で残酷な部分が、見事に表現されているなぁ、と思いました! 自分が生きることに夢中で、相手が傷ついていることに気がつかない。あるいは、他人の痛みなど、察するに値しないと考えているのでは、と感じてしまうような脇役キャラクターが多く、やるせなさに心が重くなる場面も、確かにあります。
 でも、読み終えたときに、不思議な満足感を得られるのです。それはきっと、ストーリーが重厚で、たくさんの感情を、きちんと味わわせてくれるからなのだろうな、と推察します。

秋目 人(あきめ じん)『行列のできる不思議な洋食店 〜土曜の夜はバケモノだらけ〜』(KADOKAWA)

 土曜日の夜、資格を有する“会員”だけが入店を許されるという「会員専用時間帯」が存在する、ちょっと変わった洋風家庭料理店『すずらん』。
 とある事情で、食事を心から楽しむことのできなかった主人公の山嶺結さんは、なぜか、偶然出会った『すずらん』の会員で、常連客の蔵敷さんと、その時間帯に、お店へ足を踏み入れることとなり……?
 ファンタジーが好きな方にはとっても嬉しい、怪物・幻獣・妖精がたくさん登場し、物語としても大変な読み応えのある作品です!
 特に、主人公の結さんが披露するカレーのアレンジは、お手軽で、ぜひ試してみたいと思わせてくれるものばかりですよ♪

有間 カオル(ありま かおる)『ゲストハウスわすれな荘』シリーズ(角川春樹事務所)

 かつてドヤ街と呼ばれ、日雇い労働者であふれていた東京の山谷が物語の舞台です。秋田から上京してきた主人公の千花さんは、ひょんなきっかけから、外国人が多く宿泊するゲストハウス「わすれな荘」で暮らすことに。
 この作品には、日本・外国問わず、数多くの郷土料理が登場します。連作短編形式なのですが、章の終わりごとに、物語で作られたお料理のレシピがついているのも、何となく得した気分になります。個人的にはシリーズ第2弾『スープのささやき』に掲載されている、「白玉団子 抹茶蜜・みたらし餡」なら……作れそうな……気が……いたします(とても簡単そうな手順なので(笑))。

柏井壽(かしわい ひさし)『鴨川食堂』(小学館)

 京都の一見、営業しているのかわからず、入るのも躊躇われるほどのひっそりした食堂が舞台の物語です。
 初めてのお客さんに出される、おまかせメニューは、古都にぴったりの、和風な小鉢料理が数多く登場します。ただ、それ以降はお客さんに合わせて和洋中、何でも作れてしまう料理担当・流さんなので、きっとどのメニューも見事な味がするのでしょうね……!
 そして、実はこの食堂、依頼者の思い出の“食”を、少ないヒントから再現してくれる探偵事務所も兼ねているのです!
 お料理には様々なドラマが内在していて、口にした時の幸せと、その食事を共にした大切な相手との記憶は、人々の心を救うという事を、改めて教えてくれる物語です。

友井 羊(ともい ひつじ)『スープ屋しずくの謎解き朝ごはん』(宝島社)

 題名の通り、スープが看板料理のお店が登場します。すごく丁寧に調理なさっている様子が伝わってきて、そんなお料理だからこそ、様々なひとの心に届いてゆくのだろうと思います。温かい気持ちになれるお話です。

七月 隆文(ななつき たかふみ)『ケーキ王子の名推理(スペシャリテ)』(新潮社)

 ケーキをこよなく愛する女子高校生・未羽さんは、そのケーキ愛の暴走ゆえに失恋を経験。悲しみを抱え、街をさまよっていたところ、学校一のイケメン王子・颯人さんが内緒でパティシエ修行に励むケーキ屋さんに、偶然足を踏み入れます。“これは新たな恋の始まり?”……いえいえ、颯人さんは、未羽さん(というか女性全般)に超がつくほど冷たいのです。颯人さんと知り合った事で、未羽さんの身に降りかかる数々のトラブルを、颯人さんが鋭い観察眼と高い見識で解決してゆく……という、ミステリ、お菓子、友情と、様々な要素が満載な物語です。
 連作短編形式で、多彩な切り口のお話が楽しめるのですが、個人的には、繊細な飴細工を制作してゆく工程が丁寧に描写されていた『ティラミス』が大変興味深かったです!

マサト 真希(まさと まき)『まいごなぼくらの旅ごはん』(KADOKAWA)

 主人公の颯太さんは、亡くしたばかりの父親である源太さんが開いていた小さな食堂『風来軒』の常連客であった、ひよりさんと出会います。明るく、信じられないほど大食いなひよりさんと、穏やかで料理上手な颯太さんのコンビは、『風来軒』を存続させるべく立ち上がりますが……?
 岩手県のご当地グルメや北海道の名産品を使ったお料理などが多数登場するこの作品。ストーリーも、題名に「まいご」というフレーズを遣われた意味がよく伝わってまいりました。葛藤を抱えたキャラクターがさまよい、でも、勇気を持って一歩を踏みだして、いつかは目的地へ自然と向かってゆくような……。マサト先生の文章は、ハッとさせられるような新鮮さがあるのに、上品で大変読みやすく、おすすめです♪

溝口 智子(みぞぐち さとこ)『万国菓子舗 お気に召すまま』(マイナビ出版)

 お菓子ならば、和洋中問わず何でも用意してしまう博多のお菓子屋さん「お気に召すまま」。美形だけれど少々サボり魔な店主・荘介さんと、ちゃきちゃきの博多っ子なアルバイト・久美さんが、今日も、お客さんのちょっと変わった事情と共に持ちこまれた注文と向き合い、まるで宝石みたいに美しいお菓子を、作りあげてゆきます。
 お菓子がどれもとことん美味しそうに描写されていて、お店に漂う芳醇な香りなどもしっかり伝えてくれるので、読んでいるだけでお腹がいっぱいになりそうです! ロマンチックな比喩も秀逸で、お菓子と恋って相性がいいな、と改めて思いましたv
 このレビューを書いている時点では一冊しか拝読できていませんが、続編も出ているらしいので、ぜひぜひチェックせねば、と今からわくわくしております!

友麻 碧(ゆうま みどり)『かくりよの宿飯』シリーズ(KADOKAWA)

 祖父が負った借金のカタに、あやかしの世界「隠世(かくりよ)」の宿屋の大旦那を務める鬼のお嫁さんになれと言われ、突如、あやかしだらけの世界に連れてこられてしまった主人公の葵さん。しかし彼女は、持ち前の度胸と料理の腕で、その宿屋・「天神屋(てんじんや)」にお食事処「夕がお」を開店させることに。次々と訪れる客商売ならではの試練に、真心と美味しいお料理で立ち向かってゆきます。
 軽快な主人公の語りで進んでゆく物語にどんどん引っぱられて、毎巻、あっという間に読み終えてしまいます! この作品は、できあがったお料理というよりも、作っている最中の描写がとても美味しそうで、見事、の一言に尽きます(炒めている時の、食材と調味料がからむ様子とか……!)!

漫画

準備中

準備中
美味しそうなお料理が登場する作品を読むのが大好きなので、このような紹介ページを作ってしまいました!
素敵な物語ばかりですので、よろしかったらぜひ、読破してみて下さいね(*^-^*)。